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渥美清的映画
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男はつらいよ

松竹/91分/1969年(昭44)8月27日公開 <第1作>
原作 山田洋次 脚本 山田洋次・森崎東 監督 山田洋次
撮影 高羽哲夫 音楽 山本直純 美術 梅田千代夫
共演-倍賞千恵子・森川信・三崎千恵子・前田吟・太宰久雄・笠智衆
ゲスト-光本幸子・志村喬
同時上映「喜劇・深夜族」監督:渡辺祐介 主演:伴淳三郎、藤岡琢也、緑魔子
動員数54万3000人/ロケ地・京都、奈良

キネマ旬報BEST10第6位/同・男優賞/渥美清
第24回毎日映画コンクール・監督賞・山田洋次
シナリオ作家協会シナリオ賞/森崎東
第20回芸術選奨・文部大臣賞/山田洋次
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★「男はつらいよ」第1作。

「男はつらいよ」は元々は前年の10月から4月までフジテレビ系で全26本放送されたテレビドラマだった。脚本は山田洋次が書いていた。夜10時からの45分番組。もちろんモノクロであった。テレビ版でも主役は渥美清だったがさくらは長山藍子、博を井川比呂志、つねを杉山とく子が演じていた。それ以外のキャストは映画版と同じで佐藤蛾次郎の源公も出ていた。視聴率はそれほど振るわなかったが寅がハブに噛まれて死んでしまう最終回が放送された直後から「何故寅を死なせた!」と抗議の電話がたくさん局へ寄せられた。

渥美清は4月に「でっかいでっかい野郎」が封切られていたが興行的には失敗していた。
そんな中松竹の企画会議で山田洋次は「男はつらいよ」の映画化の提案をした。
当時は未だ娯楽の王様は「映画」と言われていた時代、松竹内部からは「テレビで一度やったものをわざわざ映画にするのか」など゛批判も多数あったらしい。そんな状況の中でともかく「男はつらいよ」は5月20日にクランクインした。封切り日は未定のままだった。そして6月末にクランクアップ。劇場公開は8月27日。

映画は渥美清のダイアローグから始まる。
「桜が咲いております。懐かしい葛飾の桜が今年も咲いております。・・・思い起こせば20年前、つまらぬ事からオヤジと大喧嘩・・・」
渥美清の透き通った良く通る声は聞いているだけでも心地よい。映像は20年振りの帰郷を表現するためかモノクロで江戸川の桜並木や土手、帝釈様の境内などが映し出されて行く。このダイアローグで寅にはたったひとりの妹と早くに亡くなった「俊才の兄貴」が居た事が分かる。「男はつらいよ」がシリーズ化された以後この「俊才の兄貴」は一切触れられないが渥美清自身にも20代で結核でなくなった兄貴が居た。また役名の「車寅次郎」だが渥美清の生れた地名は東京市下谷区車坂(当時)であった。

ダイアローグが終わって初めてタイトルが出る。音楽はお馴染みの山本直純作曲の「男はつらいよ」この一作目の寅次郎は何とネクタイを締めている。靴も雪駄ではなくゴルフシューズのような粋なもの。またカバンも一回り小さいようだ。「男はつらいよ」以前の映画で渥美清が演じる役はどちらかというと頭が少し足りなくむさ苦しくて野暮ったい役が多かった。が、この車寅次郎は渥美清自身と同じ東京の生まれ、江戸っ子の粋さを持ったさっそうと肩で風を切る小綺麗ないなせ男である。渥美清にとってこの車寅次郎と言う役はまさに自分と等身大のはまり役だっただろうと思われる。

寅は20年振りにゆかりの人達と再会を果たしていく。
このとき笠智衆は65歳、森川信57歳、三崎千恵子49歳、そして倍賞千恵子が28歳の実年齢だった。
とらやに戻った翌日、二日酔いのおいちゃんの変わりに寅がさくらの見合いの席に付き添いとして出席となる。一流ホテルでの格式張ったフルコース、当然寅はズーズー音を立ててスープを吸い、ステーキの肉片を向かい側に飛ばしてしまう。果ては酔っぱらってお下劣なテキ屋口上が始まる。
「・・・しかし漢字ってのは面白うござんすねー、尸(しかばね)に水と書いて尿、つまり小便だ。尸に米と書いてフン、つまりこれは屎(クソ)ですよね。で、あっしが変だなーと思うのはですねー、尸にヒを二つ書いてこれが何と屁なんだよ屁。どうして屁がヒか?つまりオナラはピーって言う洒落かなっと思って(寅一人大爆笑)」こういうシーンは渥美清の独壇場である。「結構毛だらけ猫灰だらけ、尻の回りは糞だらけ」もこのシーンで初登場している。

寅は酔っぱらって帰宅。「お見合いは上手く行ったヨー」と豪語する。いつもならここでおいちゃんとケンカになりその結果居場所がなくなった寅は旅に出るのがパターンだが、さすがに一作目はそんな安易な筋運びはしない。
翌日寅は地域のテキ屋の協同組合?のような場所で自己紹介をして草鞋を脱ぐ口上をする。ちゃんと地域の元締めに仁義を切っているのだ。その後境内で弟分の津坂匡章と出会う。この舎弟・登はテレビシリーズから続いている役柄のようだが途中から消滅している。意気投合した寅と登が帰宅するととらやの人々は意気消沈している。さくらの見合いが正式に断られたのだ。
つねが言う「寅さんのせいでことわられたのよ」さくらが言う「昨日から今日にかけておにいちゃんのせいで私がどれだけ肩身の狭い思いをしたか分かってる?」寅は思わずさくらを殴る。この時は寅次郎も未だ暴力的である。庭に出て博も交えて大喧嘩となる。森川信が拳骨で寅を殴って言う「・・・この拳固はな俺の拳固じゃねー、死んだテメエーのオヤジの拳固だぞー」「笑わせるないー、オヤジの拳固はもっと痛かったやーい」

翌朝寅は置き手紙をしてとらやを後にする。追いかけるさくらと登。矢切の渡しの川向こうを去っていく寅。「帰って来てー」と叫ぶ二人。一作目は未だ江戸川辺りまでまで止めに来てくれていた・・・。

それから一ヶ月後、御前様の娘・光本幸子演じる冬子より奈良で幼なじみの寅と会ったと葉書が届く。療養中の娘を迎えに行った笠智衆の記念撮影の「バター」ギャグを交えて奈良での三者の珍道中がおかしく描かれる。再び葉書読んでいるシーンに戻ると当の冬子がとらやに訪ねてくる。勿論遅れて寅も来る。寅は冬子に恋をしてしまったようだ。森川信の決めセリフ「・・・馬鹿だねぇー、ホント馬鹿だねぇ」

この下りでさくらと仲良く庭で歌を唄っていた、タコ社長の工員達を寅が罵るセリフがある。
「・・・断わって置くけどなー、ウチのさくら引っかけようとしてもそうが問屋が卸さないぞ。あいつは大学でのサラリーマンと結婚させるんでぇい。テメーらミテーな職工には高嶺の花だい。分かったか、分かったらこの辺ウロウロするなよ。嫁入り前の娘が居るんだから。」博が寅の正面に来て睨む。対峙する二人。寅が小声で凄む。「・・・何見てやんでぇーテメーは・・・」オフで冬子が寅を呼ぶ。「寅ちゃーん!」寅それを聞いて満面の笑みで「はいっ!」シリーズではよくあるパターンである。身内には文句をタラタラ強面で喋っているが惚れた女が声かけるととたんに笑顔に豹変する。館内は毎度爆笑だろう。
ただこの一作目の、博に睨まれた寅の、というか渥美清の発する科白「何見てやんでぇーテメーは」は小声であるが故にドスが効いていて、直に聞いたら縮み上がってしまうだろう。このような凄味は以降無くなっていくのだが渥美清が浅草の舞台に立つ前、テキ屋も含めてかなり危ない橋を渡って生きてきた、その「凄味」が垣間見えてしまう一瞬であった。

そして寅の妨害も逆効果となって目出度くさくらと博は結ばれる事となる。
その結婚式のシークエンスで何故か山田洋次は倍賞千恵子演ずるさくらの花嫁姿には一向に関心を払わない。主人公寅の妹の結婚式なのにさくらの花嫁姿のアップが一カットもない。山田洋次はひたすら博とケンカ別れして8年間疎遠になっていて出席した志村喬演ずる両親を撮り続ける。

宴もたけわな、そんな祝いの席の中でも志村喬は笑いもせず酒も拒否している。それをチラチラ見ていた寅は次第に頭に来る。最後の親族挨拶でギャフンと言わしてやると息を巻く。
その寅の挨拶の前に志村喬が挨拶に立つ。
「・・・本来なら新郎の親としてのお礼の言葉を述べなければならない所でございますが、・・・私共、そのような資格の無い親でございます。・・・しかしこんな親でも、何と言いますか、親の気持ちには変わりないので御座いまして・・・実は今日、私は、8年振りに倅の顔を、みなさんの暖かい友情、さくらさんの優しい愛情に包まれた倅の顔を見ながら、親として、私は、いたたまれないような恥ずかしさを・・・・いったい私は、親として倅に何をしてやれたのだろうか・・・何という、私は無力な、お、親だったか・・・(涙をぬぐう)」
志村喬の名演で映画はより深い次元に達して見る人々の心を打つ。寅が羽織りの袖を勢い余って破いて志村喬に近寄る。「お父っつぁん、お母っつぁん、ありがとう、ありがとう!」泣き笑いの名シーンである。

あとに残ったのは寅の恋の行方である。しかし結果はすぐ出る。
午前様の娘・冬子には案の定婚約者が居てそれを見た寅は意気消沈してとらやに戻って来る。
ここで珍しいのは寅はウィスキーを飲み出す。つまり自棄酒である。渥美清自身は結核を患う前はヘビースモーカーで舞台に立つ前はいつも焼酎を引っかけるほどの大酒飲みだった。退院後は煙草も酒もぴったし止めたそうだ。この一作目は寅が酒を飲むシーンがかなり多く出て来ている。

そして旅に出るんだととらやを後にした上野駅で、追っかけてきた登に故郷の八戸行きの切符を強引に渡しす。同行したい登を足手まといだと殴り倒す寅。一人になって登の食べ残したラーメンを鳴きながら寅は泣き崩れる。寅の寂しさをこれだけ表出させたシーンも珍しい。 

そして「1年後-」のスーパー。
早くもさくらには子供が生れている。
寅に似ていると言われる子供を抱く午前様の元に寅から葉書が来ている。
文面を読む寅のナレーションから京都の天橋立でテキ屋稼業をする寅と別れたはずの登の二人。威勢良い渥美清のテキ屋口上が心地よくいつもの音楽が高鳴ってくる。海岸縁を歩く二人の後ろ姿にエンドマークがダブって一巻の終わりとなる。

後年山田洋次は、こんなにシリーズが長く続くのなら一作目でさくらを嫁に出すべきではなかった、子供を産ませるべきでなかったと嘆いた。しかし凝縮されたこの一作目だったからこそ長寿シリーズとなったのだろう。



<参考文献「知られざる渥美清」大下栄治「おかしな男渥美清」小林信彦>
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