直線上に配置
バナー

渥美清的映画
------------------------------------------------------------------------------------------

男はつらいよ・フーテンの寅

松竹/90分/1970年(昭45)1月15日公開 <第3作>
原作 山田洋次 脚本 山田洋次・小林俊一・宮崎晃 監督 森崎東
撮影 高羽哲夫 音楽 山本直純 美術 佐藤公信
共演-倍賞千恵子・森川信・三崎千恵子・前田吟・太宰久雄・笠智衆
ゲスト-新珠三千代・春川ますみ・花沢徳衛
同時上映「美空ひばり・森進一の花と涙と炎」監督:井上梅次
動員数52万6000人/ロケ地・四日市、桜島

第21回芸術選奨・新人賞/森崎東、同・文部大臣賞/倍賞千恵子
Back Next



★「男はつらいよ」シリーズ第3作目。

前作から2ヶ月後の公開。監督は森崎東に変わっている。当初は森崎自身が<リアルな香具師の差別の世界>をテーマに脚本を書いたのだが没になり山田洋次・小林俊一・宮崎晃の脚本で森崎が監督した。

タイトル前のアバンシーンは木曽福島の宿で風邪を引いて咳き込んでいる寅次郎から始まる。
悠木千帆演ずる仲居との間で柴又とらやの集合写真を見せて、さくらを自分の嫁だと嘘を喋ったりしている。そして蒸気機関車走るカットにメインタイトル。季節は冬。フーテン稼業の侘びしさを背負って各地を彷徨う寅のカットが続く。監督が変わると如実に画面の印象も変化する。喜劇映画の始まりなのに寅の孤独感がかなり表出されて迫ってくる。

タイトル終ると例の如く葛飾柴又界隈。師走の慌ただしいとらやの店内でタコ社長が寅の縁談の話題を話し出す。途中で電話が鳴って森川信が出てみると寅である。何のことはないとらやの三軒隣の公衆電話からかけているのだ。店先に客が来たのを見て「おいちゃん、ほらお客さんだよ」「・・・えっ?おい寅さんお前どっから電話かけてんだい?」当の寅が見かねて店前まで来て客の応対を始める。
「ほら、だんごのアンコがないよ!」
呆気にとられ受話器を持ったままの森川信に寅が「ほら、電話待ってるよ」「あっ、もしもし」「はいはい、・・俺ぁここに居るよ」・・・ガチャン。絶妙な間合いのギャクに当時の館内は大爆笑だったろう。

居間に落ち着いた寅を囲んでおいちゃんおばちゃんと博の4人。
お銚子飲みながら歓談しているのだがさくらの姿が見えない。脚本上の狙いではなく単純にさくら演ずる倍賞千恵子のスケジュールの関係だろうが少し不自然さは否めない。
やがてタコ社長の伏線で出た寅の縁談の話しに移っていく。寅も自分にきた縁談話にまんざらでもなさそう。博が聞く。
「にいさんどんな女性がタイプなんですか?」「えー、どうせこっちはしがない旅ガラスよ。贅沢は言えねぇよー。マア婆でなかったら誰でも良いって事じゃないかねぇ」「(おいちゃん)ホントに誰でも良いのかい婆じゃなかったら」「・・・マア強いて言えばさぁ、気立てが優しいって事くらいかなぁ」
当然この後、寅の要望はエスカレートして行く。
「取り立てて無ぇけど寝坊の女はいけねぇーなー」「それともう一つ、朝起きて亭主に冷たい水で顔洗わすのは良くねぇーなー」「さらに亭主が帰ってくる、風呂が先か、酒が先か。すっと面見て分かるようじゃなきゃ駄目だよ」「それともう一つ、酒は難しいよ。熱くもなく寒くもなく・・・亭主が最後の一滴を杯に受けてチュとやる。これを卓袱台に置くか置かねぇかとスッと入れ違いに人肌のもう一本がスッと出てくる。ここら辺の呼吸をうまく飲み込んでもらわねぇと気分良く酔えねぇよなぁー」一同ドッチラケ。やがて寅は酔いが回って居間に横になって呟く。
「・・・マア他に特別注文って言うのは・・・もう無いねぇ・・・うん(欠伸して)・・じゃ、寝ますか・・・」
渥美清の独壇場である。

翌日さっそくの見合いのシーンとなるが相手は寅が旅先で知り合った旧知の女。
春川ますみ演じる薄幸の女の身の上を聞いてやった寅は浮気した亭主をとらやに呼んで祝言を挙げてやる。仕出しを頼み芸者を呼んで熱海までの新婚旅行のハイヤーさえも呼んでやる。
運転手が聞く「お支払いは?」「おう、後でとらやに請求書回してくんな」
激怒するおいちゃんやおばちゃん。何で赤の他人の祝いの席料を払わないと行けないのか。
ついに博もぶち切れて庭先で寅と大立ち回り。初期の寅次郎はまだまだ非常識・理不尽きわまりない他人の迷惑省みない破天荒な行動原理で生きていた。

博にボコボコにされた翌朝、寅は江戸川の畔から旅立つ。
ここで初めて倍賞千恵子のさくらが登場。それまでは子供が熱出していると言う理由で始まって30分過ぎての登場。結局この回ではさくら登場はこことラストの居間のシーンの2シーンのみである。
「お兄ちゃんだってひょっとしたらいいお嫁さんに会えるんじゃないかと期待したんでしょ」
さくらは淋しかったであろう寅の身になっていろいろ庇ってやる。
そして博もやって来て昨夜の件を謝り土手下での別れのシーンとなっていく。
寅「俺ぁ行くぜ、あばよ」歩き出す寅。博「・・・にいさん!」寅「さくらを頼むぜ」博「はい」
寅「さくら、幸せになるんだぞっ・・・これから寒くなるからなー、赤ん坊には風邪引かすんじゃねぇぜぇー」さくら「うん」寅「あばよ」サッとコートを羽織って土手に登り出す寅。

寅「ハッ!」足が滑ってドタッとズッコケてしまう。

この呼吸が素晴らしい。見事である。館内は爆笑の渦。
渥美清も未だこの頃は若いので体を張った演技が多い。

「ひと月後」のスーパーが柴又の通りにWる。
おいちゃんおばちゃんが揃って三重の湯の山温泉へ湯治に出掛けるようだ。
このシーンでの出迎えはタコ社長と博。そして源公も。
佐藤蛾次郎演ずる源公は第一作では御前様のお寺で奉公していたようだが、続く第二作、さらに本作ではとらやの従業員として働いている。この時は未だハッキリと役柄が定まっていなかったのだろう。

宿に落ち着いた二人を新玉三千代の旅館の女将が出迎える。

新珠 三千代は1930年、奈良県奈良市出身のこの時40歳。13歳で宝塚音楽学校入学。終戦を待ち、宝塚歌劇団に入団。可憐な美貌と歌唱力でトップ娘役として活躍。宝塚歌劇団時代の代表作に『ハムレット』『ひめゆりの塔』『ジャワの踊り子』などがある。
1951年、東宝『袴だれ保輔』で映画デビュー。1955年に宝塚を退団し、日活に入社して映画女優として活躍、月丘夢路と共に看板スターに。1956年、『洲崎パラダイス赤信号』(川島雄三監督)をヒットさせるが、1957年には東宝に移籍し、以後亡くなるまで東宝所属(東宝芸能所属)だった。1959年スタートの6部作『人間の條件』では苦難を乗り越え戦場まで夫を追い求めるひたむきな妻を演じ、ブルーリボン助演女優賞を受賞。また東宝の看板映画である『社長』シリーズに数多く出演した。1966年度のキネマ旬報ベストテンで10位に入賞した『女の中にいる他人』では内に秘めた女の情念を見事に演じ切った。
テレビでは、1966年のNET(現テレビ朝日)『氷点』にて医師夫人の夏枝役を演じた他、よみうりテレビ制作・日本テレビ系(花登筐原作)『細うで繁盛記』(1970年から1973年)では、『氷点』での悪女とも言える夏枝役とは対照的に、数々の困難にもめげずに伊豆・熱川の温泉旅館を切り盛りするおかみの加代役を演じて人気を決定づけた。和服の似合う清楚高潔な「伝統的な日本女性」としてのイメージを保ちつつ、娘役から母親役まで、良妻賢母から悪女まで幅広い役柄を演じられる女優として各方面から絶賛された。

1994年12月、舞台『女たちの忠臣蔵』出演中に心臓疾患のため降板、2001年3月17日、腰椎椎間板ヘルニアの手術の際に、心臓疾患から手術の影響に耐えられず心不全を起こし死去。享年71。女優である実妹のこと以外での家族や私生活については一切明かさず、また終生独身であった。

美人女将に驚いた森川信、仲居に女将の噂話を聞き出すと
「・・・もてる何てもんじゃないですよ、何てったって女将さんに惚れ込んでそのまま番頭になっちゃったて言う男も居るくらいだから」
勿論その男は寅である。

この後は番頭仕事に八面六臂の活躍をする寅の姿と新玉三千代の弟、河原崎建三と芸者役の香山美子との駆け落ち話しが描かれていくのだがどうにも画面は弾まない。渥美清の演技は絶好調なのだがストーリーが陰気くさく見ていてあまり心地よくない。大衆喜劇映画の中で貧乏人と金持ちの「差別」的な裏テーマを描くのはちょっと無理がある気がする。それでも花沢徳兵のくだりは心打つシーンとなっている。

ラストになって案の定、寅は新玉三千代に振られる。新玉は外車に乗る大学教授と再婚する事になったのだ。大晦日の夜、とらやの人々は「行く年来る年」を見ている。1970年のこの年、居間のテレビは白黒である。アナウンサーの後で寅がヒョイと顔を出す。驚くとらやの人々。無理やり画面に映ろうとする寅と排除しようとするアナウンサー。寅はマイクを握って新玉三千代の名を呼ぶ。森川信が「・・・馬鹿だねぇ・・・」と呟く。普通のシリーズならここからラスト音楽が聞こえてくるところだろう。しかし森崎東はここでは映画を終らせない。
とらやの白黒テレビからカラーテレビの画面にカットが切り替わる。大学教授の部屋で何も気づかず台所に向かう新玉。寅はなおもカメラに向かって愛想振りまいている。大学教授が見ていたテレビをプツンと消す。・・・フェードアウト。山田洋次なら決して描かない、ここらあたりの表現は森崎東らしい。

そして初荷を乗せた渡り船の上で寅が乗客達に威勢良く口上を喋りだして音楽高鳴って行く。
ラストは桜島のロングに乗客達が合唱する、「お前のケツはクソだらけ!」
良い意味で、シリーズ一番のお下劣な「男はつらいよ」となった。



<参考文献「知られざる渥美清」大下栄治「おかしな男渥美清」小林信彦>
TOP
Back Next
弊社の配信するコンテンツ・動画等の整合性・信頼性に関しては万全を期しておりますが、
それにより生じた損害に対しては一切 の保証を負いかねます。
弊社が提供するコンテンツを無断で複製すると、著作権侵害となります。
Copyright (C) 2006, zeicompany. All rights reserved.
Free to Link
直線上に配置